巨樹たち 福島県二本松市「田中稲荷神社のヒノキ」 / 4 コメント 蟹脚で立つ異色のヒノキ コロナウィルスの感染者数が再び増加に転じ、油断するわけにはいかない昨今。 本当なら日本各地にまだ見ぬ巨樹を求めて遠征したい気持ちをぐっと堪え、昨年の探訪記事を掲載したり、必要な移動の経路上無理なく立ち寄れる巨樹の探訪に抑えて活動していきます。 今回は宮城から茨城へ、出張の道のりで出会えた巨樹です。 前回の伊達市「三田八幡神社のケヤキ」から南下し二本松市の市街地に至りましたが、ここに、やはりかなり個性的な大ヒノキがあるそうで。 場所が多少わかりづらく、下の方にまとめますが、幹線道路、病院、路面店、アパートなどが集まっていつつも、適度な起伏と緑を残している良き地方都市の風景。 目を配って歩きますが、この「田中稲荷神社のヒノキ」は、道からは奥まった位置にあるので、遠目には判別が難しいと思います。 幹周囲は5.5mあり、さすがに目の前にすれば素通りはしないでしょう。 葉が多く、濃い緑色に包まれています。 幹周囲5.5mといえばヒノキでは十分大きい部類に入り、徳島の「葛籠のヒノキ」は同じ5m台でも県最大だという。 しかし、このヒノキの特徴は幹周囲の大きさではない……包み隠さず見出しを作る手法なので、勿体ぶることができなくて残念ですが 笑。 コンクリートブロック造りに真っ赤なペンキ塗りのセルフビルドな田中稲荷神社の正面側に回ると、神社背後に見えるヒノキの姿は一変します。 一眼見て、こりゃすごい! と駆け寄ってしまう異様さ。 そうそう、これだよ! これを見に来たんだ、とマニアは唸ってしまうのではないでしょうか。 すさまじい根上がりです。 かなり急な丘状地形に生育しているため、幹を垂直に立てようとすれば、傾斜に合わせて根で身を立ち上げなくてはいけない。斜面でカメラの三脚を据える時、斜面上側の脚を短く、下側の脚を長くするのと同じ原理です。 ここの傾斜自体も手をついて登るような急さで、土の流出も頻繁にあったと見え、側にあるシイ?の木まで根上がり状態です。 理屈としてはもちろん理解できますが、いやはや、それでもこの眺めは……すごい。 まるで巨大な蟹か、さもなくばバクテリオファージです(微妙な例え)。 多脚の台の上に、幹周囲5.5mもの巨樹が乗っかっている。無理やり入れば大人でも根の下に入り込めそう。入りたいかどうかは別として……。 斜面に踏ん張る脚とは別に、垂直に地面に突き刺している根もあり、この辺りの「挙動」が実に興味深い。 この逞しいヒノキは、こんな極端な地形に生きることを受け入れ、知略と力を尽くしているのだ……と感心しました。 力押しな立ち方とは裏腹に、樹勢はすこぶる良いと言っていいと思います。 脚を突き刺している土壌が良質なのか、これまでに見たヒノキの巨樹の中でもトップクラスに葉が多く、緑が濃い。 世の中わからないものです。 脚のことばかり書きたくなりますが、樹形も変。 葉が濃いので、遠目からはまるで何本かの樹の集まりのように見えますが、主幹の位置を探ると、それが中心を大きく外していることがわかります。 蔦に覆われている箇所もあり、写真で追いづらいので、簡単な図を描いてみました。上の写真と見比べてみてください。 主幹の頭頂部はおそらく折れている。 それを修復して樹高を稼ぐことは諦め、背中側(おそらく陽当たりが良い方角)に、第二の幹のような部分を形成し、多くの枝はそこから繁茂しています(実際は絵よりも前のめりに傾斜している)。 全体像としてもかなりユニーク。 生きる意欲満点の巨樹ですね。 解説文。京都の伏見稲荷より勧請されたというように読めますが、ぱっと検索した限りでは「田中稲荷」という神社は福島県にしか存在しません(数カ所ある)。 しかし、「正一位(しょういちい)」とあり、これは神様の位階の最上位を指す言葉ですね。 現在では地元の人のみぞ知る存在だと思いますが、深い歴史があるのは確かそうです。 その田中稲荷神社への到達には、ちょっと知っておくべき点が。 Google mapを見ていただけると想像できると思いますが、住宅地の真ん中にあり、明確な道がありません。 一見どこからでも行けそうな距離に見えて、よそのお宅の庭先を歩くわけにはいかず……と、ちょっと困ってしまいました。 一応の「参道」と呼べる道はどこなのか? ……写真をご覧ください。 まず「大道寺入口」交差点の信号が目印になりますが、ここで舗装された道を辿ってはいけません。 写真、心細い「↓道」こそが神社へ通じる道で、数十メートル辿っていくと、夕方以降にはくぐりたくない鳥居群が現れる。神社はこの奥です。 街中の巨樹とあって、アクセスには細かな気遣いも必要ですが、相対するのはかなり面白い体験だったと言う他ありません。 こういう隠れた個性派巨樹の探訪、何とも痛快でやめられません。 「田中稲荷神社のヒノキ」 福島県二本松市若宮2丁目 推定樹齢:250年 樹種:ヒノキ 樹高:19メートル 幹周:5.5メートル 福島県緑の文化財指定 第99号 訪問:2020.6 探訪メモ: 上記の通り、住宅地の真ん中に位置しているため、道の把握が難しく、駐車場の確保もできません。 一見するとフラリと立ち寄れそうに見えつつも、段取りが大切な探訪になると思います。 現場はかなり狭く、蚊が多いので、広角レンズと虫除けを忘れずに!
to-fu 2020年7月20日 at 9:13 PM 返信 おおお、これまた凄いのを見つけましたね。 自分だったら到達できずに諦めていたかも、と思ったり。 (でもムキになって意地でも辿り着いているような気もする。) 何だろう。ただデカい。そんな巨樹も勿論凄いんですが、このヒノキのようについつい彼らの長い人生やその土地の歴史について想像してしまう、そういうタイプの巨樹と出会えると来て良かったなあと強く感じますね。この一見不可思議な形状もただその瞬間を生き延びようとした選択肢の積み重ねによる結果だと考えると、実に感慨深いものがあります。しかしこの荒々しさ。地図で見る限り地方都市の住宅街ド真ん中のようですが、こちらからすると山奥の巨樹にしか見えないくらいの野性味を感じます。こんなのが街中に現れるあたり東北なんだなあと。ああ…無性に巨樹遠征したくなってきましたよ。流石に今はとても長距離移動なんてできませんが、この前向きな欲求だけは常に忘れないようにしたいものですねえ。ああ羨ましい!
狛 2020年7月21日 at 11:01 AM 返信 to-fuさん> 遠征したいですねえ。この2、3ヶ月は、本来、1年のうちでも外世界への見聞を広げるための時期だったと思うんですよね。 この先、秋、冬とインドアになりがちな季節が来るにあたって、それをどう感じるか、ちょっと不安でもあります。 道はわからないながら、神社があることは確認できるので、自分も多少強行突破してたどり着いたような感じで……汗 巨樹を撮り終わったあとで周辺を探索し、おそらく正しいであろうこの道を発見しました。 実に痺れるインパクトを叩きつけてくる巨樹ですが、じっくり観察していると、大自然の中にあるわけではないながらも、いろいろあったんだな、あんたも……と樹に向かって語りかけたくなりました。 ヒノキですから、もしかすると植えられた頃は神社修復のための用材としての目論みもあったかもしれません。現在のコンクリートブロック製になる前に、切るのではなくて、御神木は保護しようという思考の興りがあったと思うのですよね。 この畑の横にはソーラーパネルが並んでいたりするんですが、それはそれ、これはこれで、古くかつユニークなこの風景が残っていってほしいものだと思いました。
RYO-JI 2020年7月21日 at 9:43 PM 返信 神社へのアプローチが凄いですね。 巨樹への強い思い入れがないと辿り着けそうにありません(笑)。 そしてそれだけにとどまらず、ヒノキ周辺環境が撮影には不向きなんだなぁと思いました。 にも関わらず絵で表現までしていただいて・・・ありがとうございます、わかり易くていいですね! 同じヒノキでも葛籠のヒノキとは似ても似つかない樹形で、生物の多様性を実感できました。 根上がりの巨樹は私にとってとてもタイムリーでしたが、これまた驚かされました。 まったくタイプの違う根上がりで、タカアシガニ、もしくは想像上の未知の生物みたいな感じです。 急斜面、大人が入れそうなほどの根元の空間を思うと、豪雨被害が懸念されます。 嫌な想像をしたくないですが、それが起こりえるのが自然ですからねぇ。
狛 2020年7月22日 at 10:32 AM 返信 RYO-JIさん> そうですね、この先にあるモノを実感していないと、まず町外の人間が踏み込んでいく場所ではないでしょうね。 超広角での撮影はデフォルメが働いてしまいますが、この樹の場合、20ミリ以下が使えないと全体像を入れることがほぼ不可能です。 根ばかりに目が行ってしまうところ、じっくり見ると他にも特徴があったので、なんとかお伝えしたいなと。 そう思わせてくれる巨樹でした。 そういえば、「葛籠のヒノキ」も傾斜地にあって、根に特徴があったのを思い出しました。 ネットがあって撮れなかったんですよね……。だからイマイチ記憶にも残りづらかったわけですが。 あのエノキは触手タイプでしたが、こちらは甲殻タイプですね。 豪雨災害が多地方を蹂躙するようになってしまうと、本当、残るのはジャングルにいるような樹種ばかりになってしまいそうです。
4件のコメント
to-fu
おおお、これまた凄いのを見つけましたね。
自分だったら到達できずに諦めていたかも、と思ったり。
(でもムキになって意地でも辿り着いているような気もする。)
何だろう。ただデカい。そんな巨樹も勿論凄いんですが、このヒノキのようについつい彼らの長い人生やその土地の歴史について想像してしまう、そういうタイプの巨樹と出会えると来て良かったなあと強く感じますね。この一見不可思議な形状もただその瞬間を生き延びようとした選択肢の積み重ねによる結果だと考えると、実に感慨深いものがあります。しかしこの荒々しさ。地図で見る限り地方都市の住宅街ド真ん中のようですが、こちらからすると山奥の巨樹にしか見えないくらいの野性味を感じます。こんなのが街中に現れるあたり東北なんだなあと。ああ…無性に巨樹遠征したくなってきましたよ。流石に今はとても長距離移動なんてできませんが、この前向きな欲求だけは常に忘れないようにしたいものですねえ。ああ羨ましい!
狛
to-fuさん>
遠征したいですねえ。この2、3ヶ月は、本来、1年のうちでも外世界への見聞を広げるための時期だったと思うんですよね。
この先、秋、冬とインドアになりがちな季節が来るにあたって、それをどう感じるか、ちょっと不安でもあります。
道はわからないながら、神社があることは確認できるので、自分も多少強行突破してたどり着いたような感じで……汗
巨樹を撮り終わったあとで周辺を探索し、おそらく正しいであろうこの道を発見しました。
実に痺れるインパクトを叩きつけてくる巨樹ですが、じっくり観察していると、大自然の中にあるわけではないながらも、いろいろあったんだな、あんたも……と樹に向かって語りかけたくなりました。
ヒノキですから、もしかすると植えられた頃は神社修復のための用材としての目論みもあったかもしれません。現在のコンクリートブロック製になる前に、切るのではなくて、御神木は保護しようという思考の興りがあったと思うのですよね。
この畑の横にはソーラーパネルが並んでいたりするんですが、それはそれ、これはこれで、古くかつユニークなこの風景が残っていってほしいものだと思いました。
RYO-JI
神社へのアプローチが凄いですね。
巨樹への強い思い入れがないと辿り着けそうにありません(笑)。
そしてそれだけにとどまらず、ヒノキ周辺環境が撮影には不向きなんだなぁと思いました。
にも関わらず絵で表現までしていただいて・・・ありがとうございます、わかり易くていいですね!
同じヒノキでも葛籠のヒノキとは似ても似つかない樹形で、生物の多様性を実感できました。
根上がりの巨樹は私にとってとてもタイムリーでしたが、これまた驚かされました。
まったくタイプの違う根上がりで、タカアシガニ、もしくは想像上の未知の生物みたいな感じです。
急斜面、大人が入れそうなほどの根元の空間を思うと、豪雨被害が懸念されます。
嫌な想像をしたくないですが、それが起こりえるのが自然ですからねぇ。
狛
RYO-JIさん>
そうですね、この先にあるモノを実感していないと、まず町外の人間が踏み込んでいく場所ではないでしょうね。
超広角での撮影はデフォルメが働いてしまいますが、この樹の場合、20ミリ以下が使えないと全体像を入れることがほぼ不可能です。
根ばかりに目が行ってしまうところ、じっくり見ると他にも特徴があったので、なんとかお伝えしたいなと。
そう思わせてくれる巨樹でした。
そういえば、「葛籠のヒノキ」も傾斜地にあって、根に特徴があったのを思い出しました。
ネットがあって撮れなかったんですよね……。だからイマイチ記憶にも残りづらかったわけですが。
あのエノキは触手タイプでしたが、こちらは甲殻タイプですね。
豪雨災害が多地方を蹂躙するようになってしまうと、本当、残るのはジャングルにいるような樹種ばかりになってしまいそうです。