巨樹たち

宮城県大崎市「祇劫寺のマルミガヤ」

涌谷伊達家菩提寺の大榧

 軟禁久しいコロナ禍中ですが、ようやく東北圏における感染者数の増加に歯止めがかかってきました。
 緊急事態宣言が解除されたので、「宮城県からは出ない」「移動も含めて密状態を避ける」「調子に乗らない」等のルールを徹底しつつ出かけてみることにしました。


 いや本当、巨樹行としてはベストシーズンでありながら、随分とお預けを食ったものです。楽しみたいというより、不健康を解消したいという欲求に変わりつつあります……。

 この期間、地図の類はあえて見ないようにしていました。
 苦しみながら一ヶ所選んだのがこちら、大崎市の「臨済宗妙心寺派 大貫山 祇劫寺(ぎこうじ)」。仙台から下道を北上して1時間45分という距離感です。

 この地域は現在も涌谷町という地名ですが、婚姻から仙台伊達家に連なることとなり「涌谷伊達家」と通称したそうです。
 祇劫寺は、初代藩主・伊達安芸定宗公の隠居所であり菩提寺。
 (「祇」という字は「ネ」偏の「氏」と書きます。)

 長い参道を登っていくと、大きな平屋造の本堂(母屋桁行10.5間=19.11メートル)の前には、伊達定宗が手植えしたというウラジロガシが立っています。
 文字通り葉の裏が白い。一瞬、スダジイのような印象も受けます。
 ギリギリ巨樹の基準を満たすかどうか……という大きさですが、歴史的価値からか市の天然記念物に指定されています。
 気に入っていた鉢植えを地植えにしたのでしょうか。年代を考えても、お手植えのリアリティは感じられます。

 祇劫寺には複数の巨樹の見所があり、本堂をぐるりと回り込みながら見ていくことに。
 入り口の門は狭いですが、広大な敷地。
 なんでも、背後はそのまま加護坊山という山に繋がっているそうです。裾野の端にこの祇劫寺がある感じでしょうか。
 本堂裏側に行くと、県指定天然記念物のマルミガヤに出会います。

 単幹のものと、途中から二股に分かれるもの、二本一対のカヤ
 大きいのは分岐している方で、樹幹は地上1.5mメートルで周囲5.15mとのこと(宮城県のホームページより)。
 こちらの個体についての記述しかなく、天然記念物指定が二本まとめてなのかは不明です。
 単幹の方も樹齢としてはおそらく同年代、太さは4m台というところでしょうか。
 どちらも、風格があり、美しい立ち姿です。

 夏のような快晴だったのですが、樹のそばまで来るとにわかに薄暗くなるほど。
 枝張りは東西約25m、南北約22mにも及ぶそうで、2本が協力してひとつの大きな樹冠を形成し、まさに笠状と形容するのがふさわしい。

 カヤの巨樹には老樹の風格と同時に生命力の陰りを感じることが多いのですが、この樹は雨をやり過ごせそうなほど枝葉が豊か。
 木漏れ日と風が実に心地よく、ここでしばらく腰掛け、何も考えずに居るのもいいなあと感じます。

 樹齢は約450年と推定されているようです。
 ということは、承応二年(1653)開山という祇劫寺の歴史より、80年ばかり長く生きている計算。
 伊達定宗が隠棲したのが慶安4年(1651)と、さっきウラジロガシの解説にありましたが、その頃にはもうここに立っていたのでしょうか。

 計算は合いませんが、個人的にはお寺の建立と同時に植えられたのではないかと考えます。
 お寺のカヤといえば、飢饉に対する生ける非常用食料庫の意味合いがある。しかも二本とも雌木。
 カヤの実(種子)からは油もとれたそうですし、優れた木材としても使えます。実に有用です。

 幹はずっしりと重そうで、幹周囲の数値などでは表せない重厚感を感じます。
 周囲が広く囲われているせいで近寄れないのは惜しいですが、それゆえにこの樹勢を保てているのかも。
 この樹から後ろは広大な原っぱのようになっていて、樹々には良い環境に見えます。

 マルミガヤは、文字通り丸みを帯びた実から付いた品種名。
 ローアングルでカメラを構えた時、足下に夥しい数の実を発見し、それが皆コロコロと丸い。
 カヤの実といえば、もっと細長い印象なので、ホントなんだなあと感心しました。  

 もう少しで地上にも達しそうな枝先には、黄緑色の新芽が次々と芽吹いています。
 東北にはカヤの巨樹が多く、これからもきっとたくさんのカヤを見ることになるのでしょう。
 この謹慎明けに健康そうなカヤを見られたことは、ひときわ良い印象を残してくれました。

「祇劫寺のマルミガヤ」
 宮城県大崎市田尻大貫宿上屋敷24 祇劫寺
 推定樹齢:450年
 樹種:マルミガヤ
 樹高:20メートル
 幹周:5.15メートル
 (地上1.5m地点、大きい方の樹)

 県指定天然記念物
 訪問:2020.5

 探訪メモ:
 入り口は結構狭いのですが、檀家さんは車で中まで入ってこられます。
 うっかり駐車で入り口を塞いでしまわないようにご注意を(やってしまった)。

 解説板の類が何もないのが不思議なくらい良いカヤ。
 マルミガヤは伊達氏が城や邸宅に植えた例もあるようですし、やはり本堂を建てると同時に植えるセットになっていたのかもしれません。

4件のコメント

  • to-fu

    マルミガヤとは初めて聞きましたが、巨樹巨木クラスのものは仙台周辺に集中しているみたいですね。
    それにしてもヒダリマキガヤにハダカガヤ…変異カヤシリーズは色々見てきたものの、そのどれもが
    どこがやねんとツッコみたくなる代物ばかりでした。でも流石にこの丸さには納得です。丸い。
    変異タイプのカヤは種子を埋めても何故か普通のカヤが生えてくるというのが定説のようですが、
    このマルミガヤは違うんでしょうか。そちらのエリアに集中していることからも、同一のカヤの
    子孫であるように思えますが…面白いです。

    しかしこの素晴らしい枝ぶり。実が丸いとか抜きにしても巨樹として十分見応えがありますね。
    モノクロの最後の一枚なんかトゲトゲしたシルエットがヒノキのようにも見えて格好良いです。
    この枝の広がりを見て、周辺環境があまりにも違う巨樹ですがあのときがわ町の「西平のカヤ」を
    思い出しました。ああ、カヤもいいですねえ。遠くに行きたい…

    • to-fuさん>
      マルミガヤは他にも宮城県に複数巨樹が存在することから、伊達家お気に入りの品種だった疑いがありますね。笑
      実を見れば特徴はわかりやすくて、ああ、これは区別付く! と納得でした。
      カヤの実を食糧と紹介する常ですが、いつか実食してみたいものですね。
      果実はないので種子(要するにドングリみたいなもの)を食べることになるようですが、いろいろな変種カヤを食べ比べてみると、それが珍重された理由ももっとはっきりするかも?
      炒って、ナッツ風に食べると良いんでしょうかね。渋かアクかに当たると嫌ですね。笑

      僕も「西平のカヤ」を思い出しましたが、こちらの方がさすがに若そうです。
      貫禄はあちらですが、このカヤはすごく枝葉が豊かなので、幹周数値以上に良い樹だと印象に残りました。

  • RYO-JI

    マルミガヤ、私も初めて知りました。
    パッと見、他のカヤと区別がつかないです(ジッと見ても・・・)。
    実が丸いからという由来のネーミングはわかりやすくていいですね(笑)。
    カヤ=お寺のイメージがあって、ここも違和感なく拝見できました。
    ただ枝葉がめちゃくちゃ多いのが印象に残りました。
    環境も良さそうでまだまだ大きくなりそうで今後の成長に期待が持てますね。

    東北の雄である伊達定宗が手植えしたという逸話が残っているということに地域性を感じます。

    • RYO-JIさん>
      そこまで気にしていなかったのですが、マルミガヤというのは東北のこの辺りメインの品種なのでしょうかね。
      いや、樹の外見は本当に「カヤ」という感じなので……。笑
      やはり、カヤがそこまで大きくならないとは知っても、5メートル台というのは物足りなさそうですよね。
      しかしその点、この樹は樹下に入った時の鬱蒼とした感じ、夏日に行くとくっきりと印象に残ってくれます。
      下で小さい椅子でも置いて、ゆっくりしたかったです。

      宮城の文化財は何かと武将・お殿様がらみで、まさに地域性です。
      すごい愛着です。笑

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