巨樹たち

岩手県一関市「配志和神社の夫婦杉」

一関市最大とされる夫婦神木

 宮城県を北上しきり、岩手県に突入。最南部の一関市に入ります。
 この日は平泉で遺産・金色堂を擁する中尊寺を参拝、巨樹は帰り足で……というプラン。

 目指す神社は、中尊寺から10キロあまり南下し、東北本線山ノ目駅の近くに位置しているらしい。
 なんだ街中じゃないかと思いましたが、行って見ると、町を取り囲むように小さな山がポコポコとたくさんあり、まるでまんが日本昔話に出てくる風景をベースにしたかのようです。

 ナビにも神社を発見できたので、任せて進んでいくと、すれ違えないような登坂になる。
 怯まずに進みますが、ついに侵入が危ぶまれる登山道?に至り、ああこれは反対側なのだ、山の裏側から回ってしまったのだと気づきます。よくあることですね。

 それでも、あと少しだろうし、車を置いて歩いて進めば良い……と先を探っていると、下の斜面から軽登山のおばさんが登ってきます。
 ハイテンポで身の上話をしつつ、道案内をしてくれつつ、ズンズン進む。途中から、この人は人間ではなく、山の精かなんかじゃないか? と思い始めました。
 ステッキじゃなくて、両手に長い木の枝をついて歩いている。

 いやいや、おかげで迷うこともなく散策路を進み、神社へ至ることができました。
 途中、管理行き届いた山の景色が綺麗です。
 野鳥観察なども良いでしょう。
 途中で見かけたこのモミなどは、目測でも明らかに幹周3メートルを超える立派なものでした。

 そんなこんなで、目指す神社に到着しました。裏口からの到達だったわけですが、徒歩は15分程度。
 この神社は「配志和(はいしわ)神社」。かつては「はしわ」とも読んだようですが、浅く検索した感じでは、ここだけにある名称のようです。古代からの様々な語呂があり、このような名前になったのでしょう。
 言うまでもなく、ここまで来れば、お目当ての巨樹たちが隠れようもなく視界に入ります。

 本殿の前に至ると、正式なルートであろう、長い石段を見下ろすことになります。
 これはなかなか……。
 道を間違えずに正面からアプローチしても、まず近道とは言えなかったことでしょうね。
 足腰に自信のない方は、裏側から途中まで車で登るルートの方が良いかも知れません。

 御神木である巨樹を見せてもらう前に、まずはお詣りを。
 ここ配志和神社は、日本武尊に由縁のある神社だそう。
 東北の神社によくある蝦夷討伐の戦勝祈願のためとあり、いったい日本の英雄の方々は、時代も主義もバラバラなのに、なんでこう揃って蝦夷を討伐に行くんだ? と不思議に思うほどです。
 千年以上の尺度で討たれても討たれてもまだ討ち甲斐のある蝦夷も、考えてみればすごい。

 江戸時代の細工のようですが、神社の柱に細かな紋様が刻んであるのが印象に残りました。

 御神木は「夫婦杉」
 合体樹のタイプではなく、対をなしている方の「夫婦」です。
 神社に向かって右手側(北側)の杉が太く、目通りで幹周囲7メートルを超える。
 真っ直ぐで逞しい幹をしており、御神木として長年大切に手入れされてきたのだと思われます。

 南側の杉は目通り4メートル半ほどと、比べれば細く見えるものの、双方において樹高は42メートルと高い。
 樹勢もよく、大きな枯損もない。見応え十分です。
 一見してよく管理された樹ですが、やはり北国、雪国の杉の遺伝子が目覚めると見えて、長く伸びた枝は途中から急激に直立し、重力を無視したような振る舞いを見せています。

 静かで素朴な神社の空気に心が落ち着きます。シンプルなご神木ですが、おのずとじっと見つめるようになる。東北らしい、逞しい良い巨樹だな……と感じます。

 解説は岩に浮き彫りの金属板が埋め込まれた立派なもの。大切にされていることが伺えました。
 千年という推定よりは若かろうと思いますが、一関市内では最大・最古の巨樹とされているようです。

 意外と参拝や散策の方が切れず、雰囲気も暗くはない。
 休日の気分転換や運動、憩いの場としてちょうどいいのかもしれませんね。

「配志和神社の夫婦杉」
岩手県一関市山目館56 配志和神社
推定樹齢:1000年
樹種:スギ
樹高:42メートル
幹周:7.18メートル/4.83メートル

市指定天然記念物

2020.2 訪問

 探訪メモ:
 参道前に第一、第二駐車場あり。
 今回辿った裏の山道は、400段以上ある石段をショートカットできますが、駐車場はありません(路肩に停めましたが、混む時期は迷惑かも……)
 足元は整備されているので、普通に歩ける靴なら心配ないでしょう。

 長い石段を登るのは大変でしょうが、石段の先に大杉が現れる瞬間は感動的な眺めだと思います。

 芭蕉の句碑もあり。
 「梅が香に のっと日の出る 山路かな」

 ……まさに、この急な地形、「のっ」と日が見えることでしょう。のっと。

 先導してくださったおばさんによれば、この神社にある複数の社は、震災を機にこの地に移動・集約されてきたものだそうです。
 震災被害や再開発から逃れてきた地元の様々な神様が集まる地。
 そう語るこの方も陸前高田市で被災されたようで、東東北の巨樹を巡ることは震災の記憶を辿ることでもあるのだな……と思いました。

6件のコメント

  • RYO-JI

    見慣れない(読めない)神社だと思いましたが、そうですか、他には無い名称なのですね。
    そして中尊寺と聞けば、何故か心がザワザワします。
    誰もが学生の頃に習ったお寺ですが、いまだ参拝できておらず、死ぬまでに行きたいお寺の代表格です。
    いや、遠いものですから、時間の経過とともにますます憧れの地となっていますね。

    それはさておき、夫婦杉といえば合体樹かと思いきや、そうきましたか。
    参道の両サイドにあるということは、もちろんそれ相応の意思を感じます。
    勉強不足でアレですが、そうすることに意味がある。
    綺麗に管理されている様子からも大切にされていることがよくわかります。
    巨樹愛好家としては、感謝するとともに何百年も前に植えた人にこの姿を見せてあげたいですね。

    • RYO-JIさん>
      少し目を離していると、どんな字だったか忘れてしまいますよね。
      中尊寺は、年を経てから行くと、平安文化(歴史)と東北風土の融合が感じられ、なかなか刺激的です。
      関西の方には、もう地図を見るだけで気が遠くなるでしょうが……でも、ぜひ訪ねていただきたい名所です。

      東北の夫婦樹は、この並び立つタイプが多いのかもしれません。
      どのタイプが多いのか統計をとったらこれも文化性がわかって面白いかもしれませんが……気まぐれだったりして。笑
      おそらくは2本の間には年齢差があると思うのですが、細い方は2代目なのかもしれません。
      理想的な夫婦神木の姿だと感じて眺めました。

  • to-fu

    以前から思っていたことですが、東北の寺社には独特の雰囲気がありますね。
    色味が薄く感じるというか華美なものが見られないというか。
    この神社が近所にあったら仰るように朝の散歩や仕事中のちょっとした気分転換に
    通ってしまいそうな気がします。もちろんついでに必ずスギも撮って帰る感じで。

    息を切らしながら正面の階段を登ってきてバーン!とご対面したら興奮するでしょうねえ。
    ヒノキっぽい鋭利な枝ぶりといい、気候が似ているからか北陸のスギとタイプが似ています。
    1000年…まだまだ若く見えますが、あと200年も経てば重厚さも備えた県下に誇る大杉になりそうです。

    • to-fuさん>
      おっしゃる通りです。これが、特にあのきらびやかな金箔螺鈿の中尊寺金色堂なんかを見た後では、余計にそう感じられます。
      ところが、丁寧に管理されていて、空気も良いんですよね。
      案外ひっきりなしに人がいるところを見ると、知名度も低くはないはずです。

      長い石段は体力づくりにも良さそう。そういう人も絶対いますね。
      僕も少し降りていって、登って見たらどうなるんだろう……とやりましたが、なかなか杉の姿が見えない。
      急に出てくるので、これは計算された演出なのか? とも思いました。
      北国の杉の緊張感は、通じるものがありますよね。あとは積雪量がどう作用してくるか。
      災害をうまく乗り越えて長く生きていって欲しいです。

  • monthong

    一関市育ちの者です。配志和神社の大杉、懐かしいですね。昔々神社の石段の脇は”ススキケ原”で貧しく小学生であった私達は、竹を割って作った手作りの”竹スキー”で滑った”思い出があり、季節を問わず楽しい遊び場でもありました。
    巨木と言えば、栗駒山登山口の真湯(しんゆ)温泉の”巨木の森”(一関市HPをご参照下さい)も素晴らしいですよ。

    • monthongさん>
      コメントありがとうございます。
      この時はなぞのご婦人に先導されるがまま、石段を使うことはありませんでしたが、段の周囲はかなりの斜面だったと記憶しています。
      スキーするとなると、かなり勇気が要りそうですね。汗
      森林公園のような気持ちのいい環境が残されていて、立派な杉と神社の厳かな佇まいが印象に残っています。
      真湯温泉の巨木の森は、調べてみたところ……以前調べっぱなしになっていたところでした。
      来年、思いつくままあちこち行けたらいいなと願ってやみません。

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