巨樹たち

東京都新宿区「新宿御苑のユリノキ」

新宿御苑のシンボルツリー

 東京在住時に幾度も訪ねていた新宿御苑。
 大きな樹があるということはもちろん記憶に残っていましたが、例えばプラタナスの巨樹をその頃から個体として識別していたかというと、自信はありません。
 あんなに見所があるのに、あの頃の自分の目は一体どこについてたんだろう……とうすら寒くなりますが。

 そんな当時から、新宿御苑の中で、印象にはっきり残っていた巨樹があります。それがこの「ユリノキ」
 御苑のホームページによれば、この広大な広場は「風景式庭園」と呼ぶらしく、

「ゆったりと広がる芝生と、自然のままにのびのび育った巨樹が特徴の庭園です。新宿門から整形式庭園へまっすぐのびた、見通し線(ビスタライン)の中央には、御苑のシンボルツリー・高さ30mをこえるユリノキが高くそびえています。」

 ……と、こうあります。

 というわけで、わざわざ探す必要もありません。
 とにかくまっすぐ歩けば、ひときわ高いその姿が目に入ってきます。

 とはいえ、なかなか思いのままにいかないのが巨樹探訪。
 いや、僕だけかもしれませんが……。笑

 この時すでに16時を過ぎ、閉園のアナウンスが鳴り始めるではありませんか。
 (編注:改修工事のため時短運営されてました。御苑の開園時間は時期によって変わるようです。月曜日は定休。
 いや、個人的待ち合わせ時間の17時(渋谷)だけを考えても、余裕はありません。急がねば。

  芝生の庭園は本当に広大で、到着するまでに息が切れました。

 当時無かった「巨樹を見る目」を通して、立派としか言いようがない幹3本を改めて見る。

 隠さず言うと、樹の前、足下のプレートを読むまで、これが「ユリノキ」という樹種だと知りませんでした。
 横着ながら、この樹については下調べもナシ。
 「あの樹、あの樹だよ、ほらあそこに見える……!」
 訪ねるだけなら、まずそれだけで十分だったとも言えます。

 ユリノキ。
 北アメリカ中部原産のモクレン科の高木。ユリノキ属は2種のみ。
 葉はTシャツのような形をして広い。
 チューリップツリーという英名通りの花を咲かせ、蜂蜜もたくさんとれる。

  知っていればチェックしたのですが、東京国立博物館本館前庭にもユリノキの巨木があるそうです。
(しかし、そこにもし立ち寄っていたら、御苑のユリノキを観察する時間はゼロ。というか御苑門前で立ち尽くしていたはず……)

 それによると、

明治8、9年頃渡来した30粒の種から育った一本の苗木から明治14年に現在地に植えられたといわれ、以来博物館の歴史を見守り続けている。
 東京国立博物館は「ユリノキの博物館」「ユリノキの館」などといわれる。」

 樹齢から考えて、この御苑のユリノキも、この種子の中のひとつだったのではないでしょうか。

 逞しくも、立ち姿にはどこか優美なシルエットが印象に残ります。
 北海道で見たヤチダモにも似て……いや、枝張りを含めるとどこかカツラ的な……と、未見の樹種の特徴を味わうのは楽しいです。

 プレートには、「巨樹・巨樹林調査」のナンバリングがあります。

 いろいろ書きましたが、やはりモクレンの仲間ということで、初夏に花を咲かせることが最大の特徴。
 モクレン、コブシホオノキ……どれも、巨樹化しつつも盛大に大きな花をつける。見所の多い樹種で、個人的にとても好きです。
 ユリノキに関して言えば、黄葉もきれいだとか。

 ちなみに写真のこれは花ではなく、その後でできた果実および種子
 ここからバラバラと平たい種子が撒き散らされるそうです。
 探して拾ってきて育てるのも良かったかもしれませんね。

 急ぎ足での訪問になってしまいましたが、遠近、どちらで見ても大変絵になる美しい巨樹でした。
 広葉落葉樹はやはり葉がいっぱいの時に見たいものですが、秋冬のボーンだけの姿で樹形を把握しておくのも意味がある。

 季節によって、たくさん変化を見せてくれる巨樹。
 大都会のオアシス・御苑のシンボルツリーにはぴったりな存在だと思いました。

「新宿御苑のユリノキ」
東京都新宿区内藤町11
推定樹齢:120年
樹種:ユリノキ
樹高:35メートル
目通り幹周:4.9メートル

訪問:2020.2

 探訪メモ:
 入り口から離れてはいますが、まっすぐ進んでいくだけで、「風景式庭園」に到達し、見間違いようがない姿が中央に見えてきます。
 遠近どちらで見る/撮るにしてもとても絵になり、楽しめます。

 足下プレートに「御苑の巨樹ラリー4番」のようにあり、これを追ってみるのも楽しそうです。

 さすがにこれだけシンボリックだと注目する人も多く、被写体になったり、絵に描かれるケースも多いでしょう。

 新宿御苑ホームページには、この樹の特集ページもありました。
 葉や花の様子も見られますので、ぜひ開いてみてください。

4件のコメント

  • to-fu

    流石にこの木は覚えてますよ!もちろんユリノキだったなんて知りませんでしたけど…
    改めて見ると本当に美しい樹形ですね。こんなにフォトジェニックな木だった?と驚きました。
    まあ、それだけ樹木に対して意識が向いてなかったんでしょう。
    きっとただデカい木だな、くらいの認識しか無かったのだと思います。

    いつものようにワイルドな巨樹探訪もいいですが、広大な庭園をのんびり散歩しながら
    目についた大きめの樹木を拾っていくような撮り方も楽しいですよね。
    特にこれから散歩には最高の季節になりますので、どこへ行こうかと今から楽しみです。

    • to-fuさん>
      この樹があると無いとでは景観の価値が大違いですよね。
      数年巨樹を見てきましたが、欧米系?の樹種に遭遇することは少なく、なおさら新鮮な目線で見ることができました。
      目黒区にも5m弱くらいの個体があるようですし、御苑のこの樹ほどのインパクトは難しい(この周囲環境はずるい笑)としても、注目して見てみたいと思いました。
      この樹だけで終わってしまうともったいない。

      そうですね、冒険からくる興奮はゼロですが、ちょっとアカデミックな?アーティスティックな?気分で巨樹を見ることができるのも良いですね。
      かなり歩かされるので、都会の巨樹巡りにもよく出来たカメラバッグは必要かもしれません。笑

  • RYO-JI

    巨樹に興味がない頃にも関わらず、見ていて記憶に残っている・・・。
    そういうのは幹周などのサイズとかではなく、その「姿」が印象的だったので覚えているのでしょうね。
    実際この立ち姿を拝見していると、美しいなぁと思います。
    広大な場所にこれだけ樹高ある大きな樹があると、誰もが目に止めるでしょう。
    森の奥でひっそりと朽ち果てそうになっている巨樹からすれば、随分と幸せな樹ですね。

    ユリノキという名称は知っていましたが、その存在はあまり意識したことなかったです。
    いかにも日本原産っぽい名前ですが、違うんですね(汗)。
    勉強になります。

    • RYO-JIさん>
      当時は巨樹に対してほんとに盲目で、えっ、こんな樹の横を素通り!? という恐るべき事態が頻発していたわけですが、この樹はただ被写体としてだけでも記憶に残るのに十分でした。
      3本1組ですが、枝張りで言えば周囲20メートル以上はあるでしょうし、夏に見たらどんな印象を受けるか、想像すると楽しみになります。
      ユリノキをDBで調べると、意外や意外、青森などでも育っていたりして、都市型でありつつ気候耐性もありそうです。

      我々が四国の山奥の集落で見た巨樹などとは全く真逆にいる巨樹。
      観光地化しているというレベル以上の立地です。当たり前ですが、この樹はこれからもずっとこうして生きていくのでしょう。
      ……そう考えると、これだけ見事に絵になる立地で落雷がないことは幸運です。
      夏の東京と言えば雷と夕立……という印象もあるんですが、やっぱりビルの方に引き寄せられてるんですかね。笑
      東京へ行く機会は減ってしまいましたが、また東京の巨樹巡り、してみたいです。

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